人間の性(さが)権力に執着し譲歩を忘れた時

今週の独り言



人間の性(さが)権力に執着し譲歩を忘れた時 2002年12月31日

モートン・ドイッチのトラッキングゲーム
上の図を見て下さい。これは心理学者のモートン・ドイッチのトラッキングゲームといわれるものです。

ではあなたが、A社の課長で仕事は定期便トラックの手配だとします。このとき、出発地から目的地までのルートが二つ存在します。一つは、海岸線を縫って行く曲がった道路です。もう一方は山の中を一直線に目的地に向かう道路です。当然、ガソリン代や人件費の節約の為、直線道路を選ぶでしょう。ただし、この直線道路は山の中の狭い道で、車一台しか通れず、反対側から車が来た場合すれ違う、スペースがありません。しかし会社の利益の為には、直線道路をどうしても使いたいと考えるはずです。そしてライバルのB社の担当者も同じように考えるでしょう。そんな時、直線道路で両社のトラックがはち合わせしたとします。

ここで3つの選択肢ができます。1.絶対に譲らない。2.しばらく待ち、自分がバックする。3.すぐに自分がバックする。

シミュレーシュンでこの実験を女子大生で行ったところ、女子大生同士ならすぐにどちらかが下がり、スムーズにことが進むだろうと思ったところ、予想に反し二人とも一歩も譲らなかったそうです。もしA社とB社がこれをやれば、両社とも利益が減るどころか共倒れになってしまいます。

ここで賢明な人たちなら、互いに譲歩し交代で直線道路を利用して、利益を出し合うことが得だと気づくはずです。しかし、これが成立するには、1回ごとに相手を待つという暗黙の了解「相互の信頼関係」が必要となります。そしてこの実験を繰り返すと、はち合わせで大損を繰り返す人たちと、かなりスムーズに相互信頼と相互取引を成立させ、利益を着実に上げる人たちに分かれたそうです。この実験は置かれた状況を冷静に把握し、相互の立場を理解することが大切で、それが利益にもなることを証明しています。

この実験はこれで終わりではありません。ここに脅迫という手段を付け加えてみます。上の図でコントロールゲートという車を通れなくする門をつけます。そしてそれをA社のみに与えたとします。するとどうなるでしょうか? 考えて下さい。

1.A・B両社共に利益増になる。2.A社は利益増・B社は損失。3.A・B両社共に損失。4.A社は損失、B社は利益増となる。

普通に考えれば、ゲートのコントロールが出来るA社が有利で、2となりそうですが実験の結果は3です。なぜか? それはA社が脅迫手段を弄(もてあそ)んだからです。権力(脅迫手段)を持ったA社はそれをを使うことばかりに、神経が行き過ぎ利益を上げるのには何が最善かという冷静な判断が二の次となってしまったからです。それに、B社の方もA社がゲートを使えば使うほど、反感を持ち自分が通れないまでも、A社を妨害してやろうと考えるからです。こうなれば、もう信頼関係も効率性も失われ、結果として両社とも損失となるのです。

この実験は何を示しているかと言うと、双方が得をするには、権力や脅迫手段を持つのではなく、相手との信頼関係を築くことが、最も重要であることを教えているのです。それでは、両社にゲートを設置したらどうなるか? これはもっとも悲惨な結果になったそうです。A・B両社がゲートを閉じる権限をフルに使い、その結果双方のゲートは閉じたままになり、両社は血みどろの足の引っ張り合いを続け大損失を計上し続けたのです。

なんでこの話をしたかと言うと、最近の国際情勢の緊張もスケールが違うもののこれと大差ないなと感じたからです。人間の悲しい性を感じてしまいます。