藤沢秀行/マイケル・スタインハルト

今週の独り言


藤沢秀行 2004年11月06日

秋の夜長に読書でも、ということで、昨夜読んだ本を紹介します。「勝負の極北」なぜ戦いつづけるのか 藤沢秀行 米長邦雄

将棋や碁をやる人は、どちらもご存知の名前だと思いますが、私は碁は知らないので、藤沢名誉棋聖のことは、この本で初めて知りました。それにしても、この人は面白い方なんですね。本を読んでると、殆どアル中に近いほどの酒好きで、奇抜な行動も多々あるようです。でも、この人は只者ではありませんよ。株を考える上でも非常に参考になることを言っているので抜粋して紹介します。

藤沢:私は日々、命懸けで碁を打ってるから、恐ろしいものはないのですよ。何が起こっても驚かない。けれど、これは私が特別ということではなくて、そもそもプロというものは、ひたすら最善手を求めて命を削る、ただそれだけなんです。だから、「この戦法がいい、あの戦法がいい」というのは、おかしな話です。ちゃんちゃらおかしい。碁にも将棋にも何々流なんていうのはあるわけがない。誰に向かっても言えることは、何もわからんくせに大きな面をするなということです。碁とはなんであるか、わかったなんて、錯覚も甚だしい。碁はそんなに簡単なものではない。分かりもしないくせに、わかったようなふりをする、これほどの不遜はありません。いかに自分が小さくて、いかに碁とか人生が奥深いものであるか。言い換えれば、碁は誰にもわからないんだと言うことを、自分が身を持て体験しなくてはいけない。連戦連勝して浮かれた顔をしてる人は、まったくダメです。何だこのヘボが、と思います。勝負の結果と言うのは、自分自身が決めるものです。他人が決めるものではない。絶えず最善を尽くすように努力しているわけだから、それがどれだけできたかですよ。だから、「勝ちたい勝ちたい」と目くじら立ててやることもないんだ。

碁というところを株に置き換えてみても同じことが言えそうですね。

参考文献 「勝負の極北」 藤沢秀行 米長邦雄




ああ不動産 2004年9月25日

家から20分ほど歩いたところに墓地ができるそうだ。当然、周辺の住民は猛反対してます。墓地が近くにあることに精神的に耐えられない人もいるかも知れないが、まぁ多くは自分の不動産価格が下がることが、直接の反対理由だろう。なんでも墓地が近くにできると、だいたい2割ぐらい相場が下がるそうだ。その周辺は住宅街で新築も最近多く建っていたので、既に買ってしまっている人は気の毒としかいいようがない。
家お墓
こう考えると不動産と言うのは、結構ハイリスクな買い物だと思いましたね。だって半年前4000万で買った一戸建ての評価額がいきなり2割下がったら800万の損失です。ハイリスクと言われる株でも半年で800万損するのはなかなか大変です。不動産のリスクはなにも墓地がくることだけではありません。家の近くに高圧線が引かれる、産廃場ができる、暴力団やオウムが近くに引っ越してくる、自分が貸してる家で自殺者がでるなどあらゆるリスクがあります。株の場合は流動性が高いので、やばいニュースがでたら多少損しても知らない人に直ぐ売りつけてしまえば、それで終わりですが、不動産の場合はいざ売るとなっても手続きが多く、早くても1~2ヶ月経ってしまいます。その間に足元をみられて二束三文に叩かれてしまう。それでも瑕疵物件が売れれば良い方でしょう。これから不動産を買う人はリスクについてもう一度考えた方がいいですよ。流動性の低い不動産は、株より遥かにハイリスクになることもあります。

ついでだから書きますが、日本の消費が伸びないのは、サラリーマンが無理して家を買うからだと思いますね。政府が持ち家取得のため優遇をするのをみていると、まったくなにやってるんだと言う感じです。下がったとは言え東京でちょと気の利いた一戸建てやマンションを買うとなれば、まだ4000万ぐらいはします。こんなものを年収500万のサラリーマンが35年ローンで無理して買ってしまえばどうなるかは明白です。ローンを返済する為、贅沢品を買わず食生活も切り詰め必死にローン返済に充てますよ。まぁどっかの会社みたいに債務免除なんて個人にはありませんからね。そりゃ大変ですよ。家を買えば消費が落ちるのは当然です。私が思うに消費を伸ばすにはバブル期みたいに一般のサラリーマンが家を買うのを諦めるような1億円にしてしまうか、逆に1千万ぐらいで買えるようにするかどちらかだと思いますね。無理してギリギリ買えるような現在の値段は最悪です。



マイケル・スタインハルト 2004年9月8日

最近、「今週の独り言」の更新をサボり今月のになりつつありますね(笑)今回は皆さんご存知の書籍「マーケットの魔術師」に収録されているマイケル・スタインハルトの言葉を紹介します。

Q:良いトレードの条件はなんですか?

マイケル:良いトレードとは、自分のアイディアを追い続けていく信念と間違いを認める柔軟性の間の微妙なバランスで成り立っているのです。何かを信じる必要があるけれども、同時に多くの間違いを犯すのです。確信と謙虚さのバランスは、幅広い経験とミスから学ぶのが一番です。反対側で売買している人間にも見通しがあるはずです。なぜ彼は売るのだろう。自分の知らない何を知っているのだろう。常にそう自問するのです。そうすれば、あなたは自分自身にも他人にも正直になれるに違いありません。

私はこの言葉が凄く気に入っています。バランスと言う言葉が2回使われていますが、私もマーケットに参加する人間にはこのバランス感覚がなにより大切だと思っています。結局、このバランス感覚が無い人間はこの世界では生き残れないのだと思います。




当たらないのは当たり前 2004年8月14日

最近、発表されたアメリカの雇用統計、日本のGDPは事前の予測値を大きく下回り、市場にネガティブサプライズをもたらしました。なぜこれほど乖離するのか怒っている人もいると思いますが、乖離するのはむしろ当然なんです。

惑星の3体問題というのをご存知でしょうか? 現在の宇宙域に太陽と地球しかなければ、地球の軌道は単純な楕円になるのですが、ここに月が入ると、3つの質量が互いに影響しあうので、方程式を立てることは出来ますが、もう数学的に地球の軌道を解くことは、不可能になります。地球の軌道はおおむね楕円でありながら、実は同じ場所を2度と通ってないカオスなのです。

なんで、こんな話をしたかと言うと、経済予測も3体問題と似ているのです。それより複雑かな? シンクタンクや内閣府の発表する経済成長率など、彼等は微分方程式で解くのですが、そもそもこの微分方程式は変数が3つ以上になると、上記と同じで基本的に解けなくなるんです。

例えば労働人口・資本量でもう2つです。そこに原材料の量など入れれば、もう解けないのです。そんな訳で、最終的に出てくる数字はかなり、いい加減です。はっきり言ってしまえば、担当者やそこの上司の主観が入った数字になるのです。それに他社が強気の予想を出しているのに、自分のところだけ弱気な数字を出す訳にもいきません。もし外れれば責任問題ですからね。しかし全社で外せば問題になりません。だからいつも横並びの数字になるんでしょうね(笑)



暴落と投資家心理 2004年8月8日

順調なマーケットにおいても数年に一度は大きな下落に見舞われる。人々はこれを暴落と呼ぶ。でも考えて見れば可笑しなことだと思いませんか? マクロ経済が一夜にして激変することなど、理論的にありえないのですから。では何故、急落が起こるんでしょうか?

暴落による投資家のパニック状態をこれを数字を持って科学的に検証した例はないかと調べたところ、ありました。ロバート・J・シラーと言うアメリカの経済学者が暴落が起きた次の日に、無作為で選んだ機関投資家175社と個人投資家125人に「その日どんな理由で株を売りましたか」と質問票を送ったところ、メディアや経済ニュース、市場の噂の類を上げた人は1人も居なかった。一番多かった回答は相場の下落それ自体だった。

これは恐らくテクニカルな面と心理的な面の両方があるのだと思います。投資家の多くはストップ・ロス(逆指値)をあらかじめ設定して相場を張っているので、下落がある臨界点を超えてくると自動的に売らざる得ない状態になる。またヘッジ売りが更なる下落を呼ぶ悪循環。また個人も損失を持ちこたえる体力が無く、追証による投売りが出て売りに拍車がかかる。これがテクニカルな面でしょう。心理的な面としては、株価の下落が心理的なストレスとなり投資家の身体を蝕みます。これも実験データがあり、トレーダーの血圧と脈拍は株価指数と連動するのだそうです。損失と言うストレスが身体にかかり正常な判断ができなくなり、それが売り注文と言う形になって市場に出る。それがまた更なる下落を呼びストレスが一層強くなる。それがまた売り・・・ と言う具合に、恐怖のフィードバックループが完成する。

結局、暴落には理屈なんていらないと言うことです。普段は高等数学を駆使して相場を理論的に説明していているプロも暴落時にとる(とれる)行動は素人と大差ないと言うのは皮肉なものです。

暴落は下落のループがなんらかの要因で閉じそれが投資家のテクニカル・心理面で加速されることにより引き起こされる予測不可能な事態と定義しておきます。